矯正治療で横顔(E-line)はどう変わる?唇の厚みから予測するRay Faceによるシミュレーション

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矯正治療で横顔(E-line)はどう変わる?Ray Faceによる軟組織の予測とシミュレーションの精度について

矯正治療で横顔(E-line)はどう変わる?唇の厚みから予測するRay Faceによるシミュレーション

「矯正治療をしたら、口元はどれくらい下がりますか?」「横顔のライン(E-line)は綺麗になりますか?」「口ゴボを治したいです」

当院ではこちらのInstagramでの発信もあるためか、矯正相談に来られる患者様から、多くいただく質問の一つがこれら「顔貌の変化」についてです。歯並びを整えることはもちろん大切ですが、それによって自分自身の顔の印象がどう変わるのかは、患者様にとって最大の関心事と言えるでしょう。
私自身は矯正治療はかみ合わせを改善するものであると考えますが、同時に笑顔を作る治療だと思っておりますので、特に口元の印象の変化については治療計画の立案で重要視している項目になります。

口ゴボを改善するために口元を下げる治療では小臼歯と言われる歯を抜いてその隙間を利用して前歯を下げる手法が用いられます。この小臼歯の幅は約7~8mmです。
しかし、実は小臼歯のスペースを活用して8mm前歯を下げたからといって、唇も8mm下がるわけではありません。そこには、一人ひとり異なる「軟組織(唇や皮膚)の厚み」という複雑さが隠されています。

本コラムでは、最新の知見に基づいた口唇位置変化の予測理論から、当院が導入している最新3Dシミュレーター「RAYFace」を用いた精密な分析まで、専門的な視点で詳しく解説します。

1. E-line(エステティックライン)とは何か

1.1 横顔の美しさを測る「ものさし」とその歴史

E-line(エステティックライン)は、1954年にアメリカの矯正歯科医ロバート・リケッツによって提唱された、横顔の調和を客観的に評価するための指標です。「鼻の先端」と「下顎の最突出点」を直線で結んだものを指し、このラインに対して上下の唇がどの位置にあるかで、顔貌のバランスを判断します。

もともと欧米人の横顔を基準に作られた指標ですが、鼻が低く顎が未発達になりやすいアジア人の骨格においても、顔立ちの美しさを左右する重要な「ものさし」として、現代の矯正歯科治療では欠かせない基準となっています。

一般的に、日本人の理想的なバランスは、「上下の唇がこのライン上にあるか、あるいはわずかに(1〜2mm程度)内側にある状態」とされています。唇がラインより大きく前に出ていると「口元の突出感」を感じ、逆に下がりすぎていると「寂しい、または老けた印象」を与える原因となります。

1.2 歯並びが横顔に与える影響:なぜ「口ゴボ」に見えるのか

私たちの唇は、その内側にある前歯と歯槽骨(歯を支える骨)によって形作られています。そのため、歯並びの乱れはダイレクトに横顔のラインに影響を及ぼします。

  • 上顎前突(出っ歯)や上下顎前突(いわゆる口ゴボ): 前歯が前方に傾斜していたり、土台となる顎の骨が前に出ていたりすると、歯が唇を外側に押し出してしまいます。その結果、E-lineから唇が大きく突出した状態になり、横から見た時に「口元が突き出している」という印象を与えます。

  • 口を閉じる時の「梅干しシワ」: 歯が突出していると、唇を閉じる際に自然と閉じることがむずかしくなります。その場合は、オトガイの筋肉が緊張し、顎の先にボコボコとした「梅干しのようなシワ」ができることがあります。これも、E-lineのバランスが崩れているサインの一つです。

歯が下がれば、それに追従して唇も下がります。これにより、鼻が高く見えたり、顎のラインがシャープになったりと、顔全体のバランスが劇的に整い、理想的なE-lineへと近づけることが可能になるのです。

2. なぜ予測は難しいのか?当院が考える「軟組織追従率」

矯正治療における口唇位置の変化は、患者様にとって最大の関心事の一つですが、歯科医師にとっても最も予測が難しい領域の一つです。その最大の理由は、「歯を8mm下げたからといって、表面の唇も8mm下がるわけではない」という移動量のギャップにあります。硬い組織である歯と、柔らかい組織である唇では移動の量にギャップが生じます。

歯は骨(歯槽骨)に埋まっており、矯正装置によって物理的に移動させることができます。しかし、私たちが目にする顔立ちは、その骨や歯の上を覆っている皮膚、筋肉、脂肪組織といった「軟組織(Soft Tissue)」によって構成されています。

この骨格的な移動(硬組織の変化)が、表面の皮膚(軟組織)の変化にどの程度反映されるかという比率を、当院では軟組織追従率」と表現しています。(これは学術的に統一された用語ではなく、当院独自の用語になりますのでご注意ください)

2.1 唇の厚みが予測を左右する:薄い唇と厚い唇の「クッション効果」

軟組織追従率は、一律ではありません。「唇の厚み」に大きく依存するといわれています。

一般的に、

・唇が薄い人ほど、歯の移動が表面に反映されやすい傾向
・唇が厚い人ほど、歯を下げることによる表面上の変化は小さくなる

薄い唇は、内側から支える歯が下がると、その分だけ皮膚もダイレクトに後退します。 逆に、「唇が厚い人ほど、歯を下げることによる表面上の変化は小さくなる(追従率が低い)」傾向があります。厚みのある唇は、その皮膚自体がクッションのような役割を果たし、内側の歯が下がっても、唇そのものの厚みがそのギャップを吸収してしまうため、表面のE-lineの変化としては現れにくくなるのです。

この違いを考慮せずに治療を行うと、治療後に「思ったより口元が下がらなかった」、あるいは逆に「下がりすぎて寂しい口元になってしまった」といったギャップが生じる原因となります。

2.2 当院における精密なシミュレーション基準:セファログラム分析に基づく3分類

当院では、こうした治療後のギャップを最小限にし、科学的根拠に基づいたE-line予測を行うため、初診時の精密検査で撮影するセファログラム(横顔のレントゲン写真)分析を重視しています。このような研究は世界的にも多数報告がありますが、当院ではアジア人の研究結果をもとに唇の厚みを下記のように分類します。(参考文献 Guan YX et al., 2019)

上唇の基部と、唇の最も突出した部分の厚みを計測し(図参照:A’~Sn、Ia~Ls)、その平均値から患者様の口唇を以下の3つのカテゴリーに分類し、個別の軟組織追従率を設定しています。

  • Thin(薄い):上唇厚み 11mm 前後

    • 軟組織追従率:約 65%

    • (例:前歯を10mm後方に下げた場合、表面の唇は約6.5mm下がる予測)

  • Normal(標準):上唇厚み 13mm 前後

    • 軟組織追従率:約 55%

    • (例:前歯を10mm後方に下げた場合、表面の唇は約5.5mm下がる予測)

  • Thick(厚い):上唇厚み 15mm 前後

    • 軟組織追従率:約 45%

    • (例:前歯を10mm後方に下げた場合、表面の唇は約4.5mm下がる予測)

この「45%〜65%」という軟組織追従率の幅は、国内外の多くの臨床研究データを総合的に解釈し当院では、この数値基準を用いることで、従来の「勘」に頼った予測ではなく、データに基づいたより現実的で満足度の高い治療結果を追求しています。
ただし、「あなたはこのタイプなので何%口元が下がる」と結論づけるわけではなく、下がる可能性がある。あくまで目安である。というお伝え方をさせていただいております。そのくらい口元の変化の予測は難しいです。

3. 3Dフェイシャルスキャナー「RAYFace」による予測

これまで解説してきた「軟組織追従率」に基づくE-lineの予測は従来より行われてきました。ただし、従来行われてきた予測手法には、ある決定的な「限界」がありました。それは、「予測がすべて2次元(平面)の情報に基づいている」という点です。

セファログラム(横顔のレントゲン)は、あくまで真横から見たシルエットの変化しか捉えることができません。横顔のお写真から、この変化をモーフィングさせる技術もありましたが、やはり二次元情報です。しかし、顔は立体であり、口元は横方向だけでなく、正面から見た時のイメージも変化します。

当院では3Dフェイシャルスキャナー「RAYFace(レイフェイス)」を導入し、E-line予測を3次元で行っています。
当院のRay Face

3.1 RAYFaceとは:0.5秒で顔の立体地図を描く「3Dカメラ」

RAYFaceは、従来のカメラのように写真を撮る感覚で、患者様の顔全体の立体的な3Dデータを一瞬で取得できる装置です。

高速スキャンと患者様への負担軽減: スキャンにかかる時間は、わずか0.5秒。じっとしているのが苦手なお子様や、長時間の検査が負担になる方でも、ストレスなく撮影を終えることができます。

3.2 RAYFaceを活用した当院の口元変化予測

当院では、前述の軟組織の追従率を元にして、口元の変化予測をRayFaceの機能でお示しするようにしております。具体的なイメージはこちらの当院のInstagramでの発信を参考にしてみてください。

Step.1 歯列の変化予測
当院では、まず矯正治療の治療計画を立案します。これにより、お前歯が後方に移動するのか?ということをシミュレーションにより算出します。この移動量については硬組織の移動になるので精度が高い予測になります。

Step.2 口元の変化予測
この歯の移動量と先程の唇の移動量の追従率を照らし合わせてシミュレーションをします。いくつかのパターンを提示するように致します。例えば「あなたは唇が薄いタイプです。そのため、比較的口元が変化しやすいタイプです。文献的には45~65%の範囲で口元が変化すると言われています。なので、一番可能性が高いのが最も口元が下がるパターン(65%)、そして想定より口元が下がらないパターン(45%)、その中間はこのような感じです」といった具合です。

4. 矯正治療で後悔しないための「可視化」の重要性

「抜歯をして大きく下げたほうがいいのか」「非抜歯で整える程度がいいのか」 これらは矯正治療における分岐点となる選択肢です。

かつては「先生にお任せします」という信頼関係のみで進められてきた部分もありましたが、現代の矯正治療は、科学的根拠とデジタル技術によって、患者様とゴールを共有することが可能になっています。

当院では、この「RAYFace」を用いたシミュレーションをカウンセリングに積極的に取り入れています。患者様ご自身の顔がどう変わるのかを視覚的に納得してからスタートすることが、治療満足度を高める最も重要なステップだと考えているからです。


Q&A:口唇の変化とE-lineに関するよくある質問

Q1. 唇が厚い人は、矯正をしてもあまり横顔が変わらないのでしょうか?

A1. 唇が薄い方に比べると変化の度合いがマイルドになる傾向があるため、あらかじめそれを踏まえた治療計画(例えば、より積極的に下げるためにアンカースクリューを併用するなど)を立てることを提案します。

Q2. E-lineよりも口を下げすぎてしまうリスクはありますか?

A2. はい、あります。特に日本人は加齢とともに唇が薄くなり、口元が萎縮していく傾向があります。若いうちに無理に下げすぎてしまうと、将来的に「ほうれい線が目立つ」「老けて見える」といったデメリットが生じることがあります。したがって、術前にどの程度口元を下げるのかということは担当医としっかりと話し合いましょう。

Q3. シミュレーション通りの顔に必ずなりますか?

A3. シミュレーションはあくまで科学的根拠に基づいた「予測」であり、100%の再現を保証するものではありません。筋肉の緊張度や肌の弾力など、デジタルデータ化しきれない個体差が存在するためです。しかし、何も予測せずに治療を行うのに比べ、ゴール地点の解像度は飛躍的に高まります。


参考文献

  1. Guan YX, et al. Effect of Soft Tissue Thickness on the Morphology of Lip in Orthodontic Treatment. Int J Morphol. 2019. (口唇の厚みが矯正治療後の形態変化に与える影響についての研究)

  2. Ricketts, R. M. Esthetics, prediction, and methods. Am J Orthod. 1971. (E-line提唱者による予測法)

  3. Ueshiba, S. A study on the relationship between the movement of maxillary incisors and the change of upper lip morphology. (上顎前歯の移動量と上唇の変化に関する日本人の特性研究)

  4. Consensus Research: Impact of Orthodontic Treatment on Soft Tissue Profile Changes. (矯正治療と軟組織プロファイルの変化に関するコンセンサスデータ)

著者情報

小松 昌平(歯学博士)

小松 昌平 (歯学博士)

矯正歯科治療を専門に行うクリニックとし
千葉県柏市の「柏の葉キャンパス」駅に開業。

経歴

2013年 日本大学松戸歯学部 卒業
2020年 日本矯正歯科学会認定医 取得
2024年~ 日本大学松戸歯学部歯科矯正学講座 兼任講師
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